キャリアシグナル
この職業に入るとき、何が先に見られるか
- 学位
- 高い
- ポートフォリオ
- 低い
- 資格
- とても高い
- インターン
- 高い
- 参入障壁
- 高い
- 採用の勢い
- 急増
- AIの影響
- ふつう
最初の一歩はこう
保険会社やコンサル会社のアクチュアリー分析職として、試験を1〜2科目通過した状態で始めます。
まだ起きていない事故に値段をつける仕事
自動車保険の更新案内が届く前に、誰かが「この契約者が来年事故を起こす確率と、そのとき支払う金額」を保険料という一つの数字に畳み込んでいる。終身保険なら、加入者が数十年後に亡くなる時期と、それまでに会社が積み立てておくべき責任準備金を見積もる。この計算を担うのがアクチュアリーである。
仕事は大きく三つに分かれる。新商品の保険料を算出すること、すでに販売した契約について将来の支払いに備える責任準備金を評価すること、そして会社が大きな損失に耐える資本を持っているかを検証することだ。統計モデルを扱うが、モデルを回せば終わりではない。前提の置き方を経営陣や金融庁に説明し、結果に責任を持つ書類に自分の名前を残す。
日本では、公益社団法人日本アクチュアリー会の資格試験が実務上の基準になっている。第1次試験は数学、生保数理、損保数理、年金数理、会計・経済・投資理論の5科目で、全科目に合格すると準会員になる。第2次試験は生保、損保、年金のコースに分かれ、合格して正会員となる。保険会社は保険業法に基づき保険計理人を選任する義務があり、その要件は内閣府令で定められている。実務では日本アクチュアリー会の正会員であることと実務経験が基準になる。
いま日本でこの職種が求められる理由
保険計理人の選任は法律上の義務であり、需要は会社の好みではなく制度に組み込まれている。加えて金融庁は、保険会社の負債と資本を経済価値ベースで評価するソルベンシー規制の導入を決めている。負債を現在の前提で繰り返し評価する体制に移ると、商品開発時に一度計算して終わる仕事が、決算ごとに繰り返され、結果が会社の資本比率に直結する仕事に変わる。計理部門の負荷は減らない。
保険会社の外にも仕事はある。監査法人やコンサルティング会社が保険会社の算出結果を検証し、企業年金や共済も長期の負債を評価できる人を必要としている。
どんな人に向いているか
- 確率や金融数学を道具として使うことに抵抗がなく、その結果を言葉に戻して説明することも嫌ではない人
- 答えが一つに定まらない問題で「この前提を選んだ理由」を記録に残す習慣がある人
- 資格試験を何年にもわたって続けられる人。試験は一度で終わらない
- 法令や会計基準が変われば自分の計算も変わるという事実を受け入れられる人
どうやって入るか
- 学部は数学、統計、経済、商学などが多いが、専攻の制限はない。ただし第1次試験の会計・経済・投資理論のように、学部で触れなかった分野は自分で補う必要がある
- 学生時代に日本アクチュアリー会の第1次試験を1〜2科目受けておき、その合格実績を持って生命保険会社、損害保険会社、信託銀行の年金部門などに新卒で入る人が多い
- 入社後は勤務しながら残りの第1次科目と第2次試験を受け続ける。多くの会社に受験支援の制度がある
- 監査法人や計理コンサルティング会社に入り、保険会社の検証業務を通じて実務を積む経路もある
- 保険計理人を目指すなら、正会員資格に加えて内閣府令が定める実務経験の要件を満たす必要がある
現実として知っておくこと
- 正会員までに何年もかかり、その間は仕事と受験勉強を並行させる。途中で止まる人も少なくない
- 決算期に業務が集中する。負債を決算ごとに再評価する体制では、この負荷は構造的なものになる
- 採用は生保、損保、信託銀行、監査法人、コンサルティング会社に集まり、地域的には東京への集中が大きい
- 仕事の多くは表計算ソフト、計理システム、SQLやR、Pythonなどのプログラミングである。数学が好きでも、道具の習得は別に必要になる
詳細キャリアレポート
この職業、本気で目指すなら
こんな人に向いてる
- ✓計算結果だけを渡さず、どの前提をなぜ選んだかを一行ずつ書き残す人
- ✓スプレッドシートの数式が合わないとき、原因が出るまでセルを一つずつさかのぼる人
- ✓算出した数字を、数理に詳しくない上司や監督当局の担当者に言葉で説明し直せる人
- ✓会計基準や監督規制の改正案が出たら、自分のモデルのどこを直すべきか先に当たりをつける人
覚悟しておくこと
- !資格を取り切るまで何年もかかり、その間は仕事と試験勉強を同時に抱えることになる
- !決算ごとに負債を再評価するため、決算期の業務集中は個人の工夫では避けられない
- !求人は保険会社、信託銀行、コンサルティング会社、年金関連に偏り、勤務地は東京にほぼ集中する
- !数学が好きでも、SQLやR、アクチュアリー用ソフトの習得は別の勉強として必要になる
段階別 準備ロードマップ
中高生のうちに
- 確率の単元を学んだら、教科書の問題ではなく「来月自分が風邪をひく確率」のような身近な事象を一つ選び、根拠を書いてみる
- 表計算ソフトで一か月の小遣いの記録表を作り、平均と標準偏差を関数で求めてみる
- 家にある保険の案内書を一枚選び、保険料、保険金額、保険期間の三つがどこに書いてあるか探してみる
大学・初期
- 日本アクチュアリー会の第一次試験科目を確認し、今学期の履修科目でカバーされない範囲を表にする
- 生命表を一つダウンロードし、RかPythonで特定年齢の平均余命を自分で計算してみる
- 保険会社の数理、商品、リスク管理部門のインターン募集を大学の就職掲示板で探し、応募条件を読む
- 合格者の体験記を二つ以上比べ、科目の受験順を決めて自分の年間計画を書く
就職準備
- 面接前に志望会社のディスクロージャー資料でソルベンシー・マージン比率を探し、何の数字か一文で説明できるようにする
- 入社一か月目に部門で使うアクチュアリー用ソフトとデータベースの名前を書き出し、業務外で基礎文法を覚える
- 今年受ける試験科目を一つ決め、受験日を上司に伝えて業務の繁忙期とぶつからないよう調整する
おすすめの専攻・分野
資格・試験・ポートフォリオ
伸ばすべき素養
資格の外で結果を分ける力、今から積めるもの
前提の置き方
保険料も責任準備金も、死亡率、解約率、割引率といった前提の上に立っていて、正解は一つに決まらない。アクチュアリーの仕事は前提を選ぶことより、なぜその前提かを他人が検証できる形で書き残すことにある。今から鍛えるなら、厚生労働省の簡易生命表を取り、ある年齢の死亡率を確認して、その数字を来年の計算にそのまま使えるかどうか理由を三行で書いてみる。
責任準備金の評価
すでに販売した契約について将来の支払いを現在価値に畳み込む計算が数理部門の中心で、経済価値ベースの制度では決算ごとに繰り返す。この数字が違えば会社の利益と資本比率がそのまま動くため、署名する保険計理人の責任がかかる。今から鍛えるなら、表計算ソフトに十年満期の契約を一つ置き、毎年の支払確率と割引率を掛けて現在価値を出し、割引率を一パーセント動かしたとき結果がどれだけ変わるか確かめてみる。
数字の説明
アクチュアリーの計算結果を読むのは経営陣、監査人、金融庁の担当者で、その多くはモデルの中身を見ない。計算が正しくても、前期からなぜ変わったかを言葉で説明できなければ、その数字は採用されない。今から鍛えるなら、最近解いた確率の問題を一つ選び、数式を使わず友人に結果と理由を三文で説明し、相手に言い直してもらう。
データ処理
アクチュアリーの作業時間の多くは契約データを抽出し整えてモデルに流す部分にあり、ここで間違えばどんな前提も意味を失う。表計算ソフトだけでは数十万件の契約を扱えないため、SQLとRまたはPython、そして会社が使うアクチュアリー用ソフトを覚える必要がある。今から鍛えるなら、公開データを一つCSVで取り、RかPythonで読み込んで年齢層別の件数を集計するコードを自分で書いてみる。
現実のアドバイス
難しさは数学そのものより、資格に至るまでの年数にある。日本アクチュアリー会の第一次試験五科目を通り、第二次試験の専門科目を終えて正会員になるまで、多くの人が働きながら何年も勉強を続ける。第一次は科目合格が積み上がる方式だが、決算期と受験勉強が重なる年が続くと受験を先送りし、そのまま止まる人も出る。2025年度からの経済価値ベースのソルベンシー規制の導入で、負債を毎期の前提で再評価する作業が定着し、金融庁の細目調整も続くため、覚えた知識がそのまま使える期間は短い。続いている人は受験日を先に決めて上司と共有し、告示や実務基準を要約が出る前に自分で読み、前提の選び方を文書に残す手間を惜しまない。