キャリアシグナル
この職業に入るとき、何が先に見られるか
- 学位
- ふつう
- ポートフォリオ
- とても高い
- 資格
- 低い
- インターン
- 高い
- 参入障壁
- ふつう
- 採用の勢い
- 減少
- AIの影響
- 高い
最初の一歩はこう
インターン記者や地方紙、オンライン媒体の見習いから始めて記事の実績を積みます。
深夜の火災で三本の電話をかけ、一本の記事にする仕事
記者は、まだ誰も整理していない事実を人より先に確かめ、文章や映像にする人だ。深夜に火災の一報が入れば、消防本部に出火時刻と負傷者の有無を確認し、現場で目撃者を探し、市役所に建物の用途を問い合わせる。三本の電話と一度の現場取材が、短い一本の記事になる。社会部の事件担当だけがこうした仕事をしているわけではない。経済部の記者は有価証券報告書と適時開示を読み、企業の広報に反論の機会を与える。政治部の記者は国会の会議録と議員の発言を照らし合わせる。共通するのは、確認されていない話を確認された事実に変える工程が仕事の中心にあることだ。取材先と連絡を取り、資料を集め、相手の言い分を聞き、デスクと記事の方向をめぐって議論する。一日の大半はこの繰り返しで埋まる。
発行部数が減っても、確かめる人が残る理由
日本新聞協会が毎年公表している新聞の発行部数は、長期にわたって減少を続けている。紙面の広告収入は縮み、読者はスマートフォンのニュースアプリや動画サービスに移った。一方で、記者の仕事の形は増えている。データ報道、ファクトチェック、ニュースレター、調査報道の専門チームが、従来の日刊紙の取材体制のそばに置かれるようになった。日本には記者の国家資格や免許がなく、記者の身分は所属する報道機関が与える。行政の窓口では記者クラブが取材の入口として機能しており、日本新聞協会は記者クラブに関する見解を公表して運営の考え方を示している。生成AIが作った文章や映像が増えるほど、出典を自分で確かめた情報を出せる人の位置は、かえってはっきりしてきた。
どんな人に向いているか
- 面識のない相手に電話をかけて質問することが苦にならない人
- 一文を書く前に、その根拠がどこにあるかを自分に問う習慣がある人
- 締め切りの中で、完全ではなくても正確な原稿を出せる人
- 批判的な記事を書いた翌日に、同じ取材先へまた連絡できる人
どうやって入るか
- 国家資格はない。新聞社、放送局、通信社がそれぞれ採用し、学部や専攻の制限を設けない社が多い。
- 大手の新聞社や放送局は新卒採用で「記者職」を職種別に募集する。筆記試験(時事問題と作文)と複数回の面接を組み合わせる形が一般的で、詳細は社ごとに異なる。
- 入社後は地方の支局に配属され、警察や県政の取材から始めて本社の部署へ移る経路が、大手新聞社では今も広く残っている。
- 大学の新聞部、放送研究会、報道機関のインターンシップは、取材経験を示す材料として選考で扱われる。
- 地方紙、専門紙、ネットメディアは中途採用の比重が大きく、そこで経験を積んで別の媒体へ移る道も珍しくない。NHKは民放とは別の採用体系を持つ。
現実的に知っておくこと
- 記者に法律で定められた独占業務はなく、誰でも取材して記事を書くことはできる。ただし記事の一行ごとに、民法の名誉毀損に基づく損害賠償請求や刑法の名誉毀損罪の問題が付いてくる。
- 記者クラブへの加盟は原則として報道機関の単位で判断され、フリーランスの参加は長く議論が続いている。所属によって取材できる場所が変わる現実がある。
- 事件、選挙、災害は時間を選ばない。支局時代の夜回りや休日出勤は、多くの社で今も日常だ。
- 正社員の記者と、契約や業務委託で働く記者の間で待遇の差は大きい。同じ「記者」という肩書でも、媒体によって仕事の内容と条件は違う。
詳細キャリアレポート
この職業、本気で目指すなら
こんな人に向いてる
- ✓知らない番号に電話をかけ、名前と所属を告げてすぐ質問に入れる人
- ✓一文を書く前に、その根拠がどの資料、どの発言にあるのかを自分に問い直す習慣がある人
- ✓締め切り20分前に、裏が取れたことだけを残し、取れていないことを削って原稿を出せる人
- ✓自分の記事に抗議の電話を受けた翌日、同じ取材先にまた連絡して続報を取れる人
覚悟しておくこと
- !記者に免許はなく、法で守られた職域もない。入口は各社の採用試験ほぼ一本で、準備が長期化しやすい。
- !新聞社や放送局の正社員採用と、契約や業務委託の記者との待遇差は大きい。同じ肩書きでも条件はまったく違う。
- !記事一行ごとに訂正要求や名誉毀損の訴えがついてくる。取材源の秘匿は判例上の慣行であって、法律で明文化された権利ではない。
- !文章を書く仕事だと思って入ると食い違う。一日の大半は電話、待機、資料の入手、デスクとの方向性の調整に費やされる。
段階別 準備ロードマップ
中高生のうちに
- 今日のニュースを一つ選び、同じ出来事を扱った三つの媒体の記事を並べて、どの文が確認された事実で、どの文が解釈かに印をつけてみる。
- 新聞部や放送部があれば入る。なければ学校で起きた出来事を一つ選び、関係者三人に話を聞いて800字にまとめてみる。
- 毎日20分、新聞か通信社の記事を読み、知らない言葉と機関の名前を調べてノートに書き出す。
大学・初期
- 大学新聞や学内放送に入り、一学期に十本以上を署名記事として出す。エントリーシートと面接で取材経験を示す実物になる。
- 新聞社や放送局のインターン、地方紙やネットメディアの随時採用を調べ、在学中に一度は実在の媒体名で記事を書く。
- 情報公開請求を一度自分で出してみて、届いた文書から短い記事を書いてみる。
- 各社の筆記試験に合わせ、時事問題と作文を毎週一本、時間を計って書く。ニュース時事能力検定の過去問を使うと出題傾向がつかめる。
就職準備
- 新聞社、放送局、通信社の採用スケジュールを一覧にし、エントリーシート、筆記、面接の各段階で自分の記事の見せ方を選び直す。
- 地方紙、専門紙、ネットメディアの随時採用にも並行して応募し、まず署名記事を積む。そこで書いた記事が次の転職の材料になる。
- 配属された最初の月に、担当先の広報担当者、前任者、関係する団体の連絡先を自分で集めて名刺ファイルを作る。
おすすめの専攻・分野
資格・試験・ポートフォリオ
伸ばすべき素養
資格の外で結果を分ける力、今から積めるもの
ネタ元づくり
記事は文書より先に人から出てくる。広報が公式回答しか出さないとき、実務担当の一人が事情を教えてくれる関係があるかどうかで、確認の速さが決まる。この関係は記事が要るときではなく、要らないときに積み上がる。今できるのは、関心のある分野の公聴会や記者会見に行って登壇者一人から名刺をもらい、記事と無関係な質問を一つ、一週間以内にメールで送ってみることだ。
裏取り
記者の仕事の中心は、確認されていない話を確認された事実に変えることで、その道具は電話と文書だ。目撃者の話は消防の記録と、企業関係者の話は開示資料と、議員の発言は議事録と照合してから原稿に入る。裏を取らずに書いた一文が訂正要求や訴訟になって返ってくる。今できるのは、今日読んだ記事を一本選び、中の数字と引用五つの一次資料を自分で探し、見つからなかったものに印をつけることだ。
締め切り原稿
原稿は完璧になったときではなく、締め切りが来たときに出る。深夜の火事は電話三本と現場一回で記事にならなければならず、確認できたものとできていないものを分ける判断のほうが、書く速さより重要だ。締め切り内に正確な原稿を出す力は才能ではなく反復でつく。今できるのは、今日起きた出来事を一つ選び、タイマーを40分にセットして、最初の一文に誰が何をいつどこでしたかを入れた600字を書いてみることだ。
資料読み
経済部は開示資料と財務諸表を、政治部は議事録を、社会部は判決文と情報公開資料を読む。人の話は変わるが文書は残るので、資料を読める記者は反論を受けても揺れない。データ分析やファクトチェックが取材の方法に入ってきた今は、表と数字を自分で読む力も一緒に要る。今できるのは、EDINETで知っている企業の有価証券報告書を開き、売上高、営業利益、従業員数がどのページにあるかを探して三行に要約してみることだ。
現実のアドバイス
この仕事の難しさは文章ではなく裏取りにある。電話を十本かけて九本は断られ、取れた一つの答えも文書と照合してからでなければ原稿に入れられない。人が辞める理由は、警察回りや夜討ち朝駆けの負荷が新人期を過ぎても大きく減らないこと、正社員と契約や委託の記者の待遇差が開いたまま埋まらないこと、そして訂正要求や名誉毀損の訴えの重みが年数とともに積み上がることだ。取材源の秘匿が法律ではなく慣行に支えられている以上、その責任は個人と会社にかかり続ける。長く続く人は、特定の分野の担当先と取材先の連絡帳を自分の資産として育て、批判を受けた翌日にも同じ相手に電話をかけられる人だ。