"'Make it matter. Make it simple. Make it short.' (Everybody Writes)"
彼らの物語
想像してみて。インターネットは、生まれたばかりの子鹿のように足元がおぼつかない。ドットコム・バブルは崩壊し、メールの受信箱は誰もいない廊下のように静まり返っている。そんな先の見えない時代に、アン・ハンドリーが手にしていたのは、言葉というささやかな武器と、一つの問いだった。何かを変えるには、あまりに平凡に聞こえる問い。「書くことで、本当に誰かの役に立てるとしたら?」
もともとアンは、英文学を専攻する一人の学生だった。音楽を愛する人がいるように、彼女は文章を愛していた。仕事の出発点はジャーナリスト。テクノロジー系の媒体に記事を書いていた。華やかな仕事ではない。締め切りは、今にもかみつきそうな勢いで迫ってくる。編集者からは、わかりやすく書くよう求められる。読者が知りたいのは、書き手がどれほど賢いかではなく、何を伝えようとしているかだ。アンは知らず知らずのうちに、もっと大きな舞台に立つための力を磨いていた。
やがて、状況が一変する。不況が訪れ、多くの人が恐れる知らせがアンにも届いた。解雇だ。あなたならどうする? パニックになる? 諦める? 姿を消す? もちろん、アンも傷ついた。でも、心にはもう一つ、簡単には消えない小さな火がともっていた。彼女はコンテンツのコンサルティングへと仕事の軸を移す。「コンテンツマーケティング」という言葉さえ、まだ耳慣れないものだったころのことだ。リスクがあり、先も見えない。孤独な仕事だった。
そして、大きな転機が訪れる。ドットコム・バブル崩壊のさなか、アンはMarketingProfsのニュースレターを立ち上げた。周りが規模を縮めるなかで、彼女は新しいものをつくっていた。メールを一通送るたびに、相手の役に立つ。それを重ねて信頼を得るという、昔ながらのやり方だった。読者は増え続け、やがて50万人に達する。50万人もの人が、自分の受信箱にアンの言葉が届くことを選んだ。その光景を想像できる?
その歩みのなかで、アンは進む方向を教えてくれる一つの心得をつかむ。「自分のことよりも読み手を大切にすると、文章は生き生きとし始める」。朝は静かに日記を書く「モーニングページ」で心を整える。そして毎日、じっくり集中して仕事をする時間を、宝箱のように大切に守っている。
やがてアンは、企業の伝え方を変える手引書『Everybody Writes』を書く。10万部を超える売り上げを記録したこの本は、文章を書くことを、謎めいた才能から、誰もが練習して身につけられる技術へと変えた。彼女が繰り返す言葉は、まるで呪文のようだ。「読む意味のあるものに。わかりやすく。短く」。
アン・ハンドリーの物語から、みんなは何を学べるだろう。思い描いていた計画が人生の途中で消えてしまっても、新しい計画は書ける。自分の言葉の向こうにいる人を大切にすること。そして、書き続けること。ニュースレター一本、ひとまとまりの文章、すっと伝わる一文。そんな小さなものが、自分にとっていちばん大きな仕事の始まりになることもあるのだから。
学生へのアドバイス
'自分のことよりも読み手を大切にすると、文章は生き生きとし始める。'



