"'The best marketing doesn't feel like marketing.' (Whiteboard Friday series)"
彼らの物語
ちょっと想像してみてほしい。実家の地下室で、低くうなるコンピューターと、コーヒーが半分ほど残ったカップに囲まれている若者がいる。ほとんどの人が存在すら知らない技術を、独学で身につけようとしている。スーツ姿でもなければ、学位証書を手にしているわけでもない。実は、大学は中退している。それでもノートパソコンを開く。まるでそこに、ほかの誰にも見えていない未来への扉があるかのように。
その若者が、ランド・フィッシュキンだ。
始まりは、どうしても答えを知りたい、素朴な問いだった。「ウェブサイトは、どうすれば見つけてもらえるんだろう?」。周りが近道を探すなか、ランドは仕組みを理解しようとした。地下室で、少しずつ、失敗を重ねながら、初めてのSEOツールを作っていく。そう、失敗ならいくらでもあった。複雑でつかみどころのないアルゴリズム。理解してくれない顧客。数字がまったく動かない日々。夢を追っているのに手応えがなく、成果も数字に表れないとき、あなたならどうする?
それでもランドは続けた。やがて仲間と会社を立ち上げる。その会社はのちにMozとなり、SEOの世界で広く知られる、1億ドルを超える規模の企業へと育っていく。けれど、物語のいちばん大きな転機を生んだのは、お金ではない。自分の知識を惜しみなく分かち合う姿勢だった。
ランドはカメラの前に立ち、「Whiteboard Friday」という無料動画を作り始める。学びたい人なら誰にでも教えるためだ。有料会員になる必要も、凝った宣伝の仕掛けもない。あるのは、わかりやすい説明と熱意、そして人の役に立つことこそ最善の戦略だという信念。その考えを表す言葉が、活動の指針になっていく。「最高のマーケティングは、マーケティングだと感じさせない」。すると、世の中が一気に彼に注目し始める。
ここから先は、多くの伝記では語られない話だ。
表からは見えないところで、取締役会の緊張が高まっていく。意思決定に、社内の駆け引きが絡むようになる。そしてある日、ランドは自分も育ててきた会社から追い出されてしまう。自分で城を築いたのに、その城から出ていくように言われる。そんな場面を想像してみてほしい。深い絶望に襲われ、自分が何者なのかさえわからなくなる。物語の主人公は、最後には勝つはずなのに……どうして自分は負けているように感じるのだろう?
ランドは人目を避ける代わりに、なかなかできないことを選んだ。本当のことを話したのだ。『Lost and Founder』を書き、スタートアップの現実を、痛いほど正直に描いた。彼が伝えたかったのは、スタートアップには苦痛も混乱も理不尽さもある、ということ。そして、もう一度始める。SparkToroを立ち上げ、最初から大切だった考えに立ち返った。まずは、届けたい相手のことを考える。
ランドの歩みから、学生のみんなは何を学べるだろう? 成功への道は一直線ではない。嵐のなかで船の進め方を覚えていくようなものだ。失敗は成功の反対ではなく、確かなものを築くために引き受けなければならない代償であることも多い。そして毎朝、ダッシュボードを確認し、その日も仕事に向き合うランドの姿が、もう一つ教えてくれる。あなたの物語が終わるのは、転んだときではない。進むのをやめたときだ。
学生へのアドバイス
'Lost and Founder: スタートアップには、どうしようもなくつらいときもある。それを受け止めて、まずは届けたい相手のことを考えよう。'


